「真宏。高校卒業するまで、薫(カオル)の家であんたのこと預かれるかもしれないって」
母さんの口からその言葉を聞いたとき、俺はそっけない返事を返しただけだった。
だけど、内心ちょっと喜んでいた。
『薫』とは母さんの妹で、俺の叔母にあたる。
叔母といっても、母さんとは十歳近く年が離れているから、俺にとってはお姉さんみたいな存在だった。
カオルさんは物心付いたときには既に俺の傍にいて、俺のことを「まぁ君」と呼んで可愛がってくれていた。
二年前に結婚するまでは俺の家にも頻繁に顔を出していたが、最近はほとんど顔を見ない。
それが少し淋しい。
美人で優しくて笑顔の似合うカオルさんは、小さい頃から俺の憧れの女性(ヒト)だった。
拓馬が言ったように、俺の初恋の人。
そのカオルさんの家に住まわせてもらうことが、昨日ようやく決定したのだ。
ずっと憧れていたカオルさんと高校卒業するまでの二年弱一緒に生活できるなんて、思ってもみなかった。