ふと、拓馬のにやついた顔が頭に浮かぶ。

あいつなら今の俺の状況を見て絶対こう言うに決まってる。


『真宏、奏葉ちゃんのこと好きなんだろ?』

俺はゆるゆると首を横に振ると、頭の中に現れた拓馬の残像を追い払った。


「これにしよ!」

そのとき、奏葉がガイドマップから視線を上げる。

目があった奏葉が、次に乗るアトラクションを指さしながらほんの少しだけ頬を緩めた。

観覧車の中で見た笑顔とはかけ離れているけれど、奏葉の頬に浮かぶのは確かに小さな笑顔で。

それが俺の胸をぎゅっとつかんで、そこにある何かを全部さらっていく。

俺は奏葉に笑い返すと、彼女が指差すガイドマップを覗き込んだ。


「これ」

至近距離で奏葉に見上げられて、ドキリとする。


好きだとか、奏葉に対する恋愛感情は別として、俺は彼女に少しでもいいから笑っていてほしかった。


奏葉の笑顔は夜空に光る小さな星みたいに、控え目だけど確かにきらきらと輝いいて、俺にはとても眩しく見えたんだ。