「え、ちょっと」
何かぼやいている奏葉の声を無視して、観覧車の方へ彼女を引っ張っていく。
割引券を入り口で提供しているだけあって、観覧車は若いカップルの列で込み合っていた。
俺と隣に並んでいる間、終始嫌そうな表情を浮かべていた奏葉だったが、順番が来てゴンドラの中に乗り込むと、窓に額をくっつけて、子どもみたいに外の景色を眺めていた。
俺は好奇心いっぱいの目で外を眺めている奏葉の横顔を見つめながら、頬を緩める。
しばらく奏葉の横顔を眺めていると、いつの間にか観覧車は頂上近くまでやってきていた。
「そわ、もうすぐ頂上」
声をかけると、奏葉が振り返った。
「ほんとだ」
立ち上がりそうな勢いで周りをきょろきょろと見回す奏葉を見て、思わず吹き出しそうになる。
「ガキみたい」
俺がそう言うと、奏葉ははっとしてゴンドラの椅子に姿勢を正して座りなおした。
さっきまでのはしゃぎ具合がまるで嘘のようで、奏葉がとたんに大人しくなる。