「真宏(マヒロ)。さっき茉那に言ってたけど、お前来週から親戚のうちに住むの?」

                 
都築 茉那に手を振って歩き出した俺に、親友の森宮 拓馬がそう尋ねてきた。


「そうなんだよ。実は昨日決まったばっかりでさ」

「へぇ。でも、まぁ良かったな」

「俺としては一人暮らししたかったんだけどな」

そう言って上を向いた俺を見て、拓馬がにやりと意味あり気に笑った。


「だよな。お前、一人暮らしできるって相当喜んでたし。それなのに親にあっさり従ったってことは、その親戚ってもしかして――……」
「あぁっ!」

拓馬に次の言葉を言わせまいと、俺は大きな声を出して彼の言葉を遮った。


「やっぱり」

やや赤くなった俺の顔を見て、拓馬がさらににやつく。


「その親戚って、カオルさんだろ?」

にやけ顔の拓馬に何も言い返せず、俺は俯いてくしゃくしゃと髪を掻いた。


「そりゃぁ断るわけにいかないよな?なんと言ってカオルさんは真宏の初恋だし」

「それ以上言うな!」


俺は赤い顔のままで拓馬を睨むと、彼の頭を軽く小突く。

俺に小突かれても、拓馬はまだへらへらと笑ったままだ。