「泣くなよ」
奏葉の耳元で祈るようにささやく。
息が漏れ、奏葉の身体が俺の腕の中で小さく震えた。
「泣くな」
奏葉は震えたままで何も言わない。
「お前に泣かれたら、ほっとけなくなる」
「ふっ……」
奏葉は引きつるような息をすると、俺の背中に両腕を回し、縋るように制服のシャツをぎゅっと掴んだ。
「なくなっちゃった……」
俺の腕の中で、奏葉が嗚咽を漏らす。
「ママの星、なくなっちゃった……永遠に、見失っちゃう……」
奏葉は震える声でそう言うと、声をたてて泣いた。
いつも強がっている奏葉。
決して他人を頼ろうとはしない奏葉。
そんな彼女の弱音と泣き声が、雨の音に紛れて掻き消されていく。
俺の腕の中で泣きじゃくる奏葉の頭に頬を押し付ける。
唇を強く噛み締めると、口内でじわりと鉄の味がした。
俺と奏葉の上に容赦なく降り続ける雨。
時間を追うごとに激しくなっていく雨の中で、俺はただ奏葉を強く抱きしめてやることしかできなかった。