「泣いてんの?」


目を細めて奏葉を見つめると、彼女が取り繕うように手の平で頬を拭った。


「まさか。雨で濡れただけ」

彼女のその仕草もその言葉も、俺にはただの強がりにしか見えなかった。


言葉にできない想いが俺の胸を締め付ける。

目の前の奏葉を見ていると、どうしようもなく切なくて苦しかった。


俺の手から傘が落ちた。

カサリと小さな音をたてて、傘が地面に逆さまにひっくり返る。


頭で考えるよりも先に身体が動く。

気付くと俺は奏葉を強く抱きしめていた。


「ちょっと、何する――……」

俺の胸を押し返そうとする奏葉を、それができないようにさらに強い力で抱きしめる。



腕の中にある奏葉の華奢な身体を。

本当は傷つきやすい彼女の心を。


ただ、守りたいと思った――……