終業式で何となくざわつく教室の中で、俺は机に肘を付きながら拓馬と話をしていた。
何気なく廊下の方に視線を移すと、誰かがもの凄い勢いで廊下を駆け抜けていくのが見えた。
ショートボブの髪に華奢な身体。
目の吊りあがった少しきつそうに見える横顔。
制服のスカートが風を含んで翻る。
「そわ?」
一瞬のことで確信は持てなかったが、たった今廊下を駆け抜けていった女が奏葉だったような気がした。
「奏葉ちゃんがどうかした?」
拓馬が不思議そうに首を傾げる。
俺は立ち上がると、教室のドアから廊下を覗いた。
俺が覗いたときにはもう、廊下に奏葉らしき人物の姿はなかった。
「真宏?一体何なんだよ?」
突然立ち上がった俺の後ろを、拓馬がダルそうな表情でついてくる。
「今、そわが廊下を走っていかなかったか?」
俺が尋ねると、拓馬がにやりと笑う。
「真宏、奏葉ちゃんのこと考えすぎてついに幻でも見た?」