俺は若菜の肩にそっと触れると、できるだけ穏やかな声で彼女に告げた。


「若菜。悪いけど、俺お前が言おうとしてた言葉の続きは聞けない」

若菜がぎゅっと唇を引き結び、切ない瞳で俺を見上げる。

今にも泣き出しそうな若菜を前にして、俺は何もしてやることができなかった。


「若菜なら、すぐに彼氏できるだろ?」

ただ気休めにそう言う。

若菜はしばらく俺をまっすぐに見上げていたが、やがて視線を反らすと黙って俺に背を向けた。

何も言わずに立ち去っていく若菜の背中を複雑な気持ちで見守る。


「気がないならもっときっぱり断った方がいいんじゃない?あの手の女はちょっとでも優しいトコ見せたら勘違いしてまた近寄ってくるよ」

黙って俺達のやり取りを見ていた奏葉が、さも知った風な口を利く。


「わかったようなこと言うなよ」

俺が睨むと、奏葉は呆れ顔で小さく肩を竦めた。


「東堂さんに対してあんたもまだ気があるなら、私は何も言わないけど」

奏葉がそう言って、隣に立っている茉那に視線を向ける。

茉那はぴくりとも動かず、じっと顔を俯けたままでいた。

何だか様子がおかしい。