「まぁひろっ」
放課後、校門を出たところで聞き覚えのある舌足らずの甘ったるい声に呼び止められた。
校門の脇に立っているその声の主の顔を確認し、思わず顔をしかめる。
「なぁに、その顔?」
声の主が、艶々としたリップグロスを塗った唇の先を尖らせる。
「若菜、何?」
俺の前に立っていたのは、元カノ。
東堂 若菜だった。
声を掛けると、彼女が俺に擦り寄るように近づいてくる。
傍に来た若菜からは、香水の甘い匂いがした。
つけ過ぎているのか、その匂いが嫌な感じで鼻を衝く。
俺はさりげなく鼻を指で擦って息を止めると、近づいてきた若菜から少し距離を置いた。
だが、俺が距離を置いたその分だけ若菜が距離を詰めてくる。
若菜とは別れてからほとんど顔を合わすことがなかったのに、今さら俺に何の用だろう。
訝しげに思っていると、若菜が突然俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。