「なぁ、そわ。お前の靴、何でそんな濡れてんの?」
真宏に問われて、私は小さく肩を竦める。
「さぁ。私の靴箱にだけ、雨でも降ったんじゃない?」
冗談交じりに答えると、真宏がほんの少し眉を顰めた。
「何だよ、それ?誰かにやられたってこと?」
私は唇の端を引きつらせると、微かに笑った。
「お前、嫌がらせされるようなことでもしたの?」
大したことじゃないのに、真宏はしつこく詰め寄ってくる。
「さぁ」
「さぁって。こんなことされて、お前ムカつかねぇの?」
私の靴に起きた惨事に、真宏は当人の私以上に怒っているようだった。
「別に」
そう答えながら、今朝教室で東堂 若菜が言っていたことを思い出す。
真宏は、“浮いている”子を放っておけないタイプ。
今の真宏のおせっかい振りを見る限り、若菜が言っていたことはまんざら嘘でもないのかもしれない。
私は真宏の横顔にちらりと視線を向け、小さく鼻で笑った。
「何だよ?」
笑ったことに気付いた真宏が、睨むように私を見下ろす。