「あっ、そう。同居人だかなんだか知らないけど、これ以上この家に他人を住まわせてパパは一体何がしたいのよ。うちはいつから賃貸アパートになったわけ?」
「お姉ちゃん。その子、お姉ちゃんと同じ年で高校も――……」
まだ何か言っている春陽に背を向けると、私は二階へと続く階段に足を掛けた。
「奏葉、ちょっと待ちなさい。お前にも話があるんだ」
二階へ上がろうとしている私を、父の声が呼び止める。
仕方なく振り返ると、父の横にはあの女が不安そうな表情で立っていた。
「何?同居人がどうとかって話なら、春陽から今聞いたけど」
突き放した声でそう言う。
「そうか。実は、薫のお姉さん夫婦がしばらく仕事の関係で海外に行くことになってな。」
「薫(カオル)」と、父はあの女の顔を横目に見ながら彼女の名前を呼んだ。
「それで、その息子さんをしばらくうちでお預かりすることになったんだ」
春陽の話にさして興味を示さなかった私だったが、父のその言葉を聞いた瞬間顔色が変わった。
「は?」
頬の辺りが勝手にぴくぴくと引き攣る。
「年はお前と同じ年らしい。仲良く――……」
「ふざけないでよ!」
私の口から家中に響くほどの叫び声が溢れた。