「茉那。行くよ」

私は茉那の腕を引くと教室を出た。

若菜の鋭い視線が背中を突き刺してくる。

私は若菜を一度も振り返らなかった。

愛想の良い笑顔は若菜の作り物で、きっと今私に見せている顔が彼女の本性だ。

茉那の手を引きながら、私は小さく身震いをした。


「奏葉、ごめんね。あたし……」
       
教室を出ると、茉那が弱々しい声で謝ってきた。


「いいよ。茉那が悪いわけじゃない」

振り返ると、茉那が泣きそうな顔で睫毛を伏せた。


「あたし、バカだなぁ。東堂さんみたいな目立つ女の子が、あたしなんかと仲良くなろうって思うはずないのに」

泣きそうな顔をしているのに、それでも笑おうとする茉那の姿が痛々しかった。

茉那の頭に手をのせて、彼女の頭をよしよしと手の平で撫でる。


「奏葉?」

茉那が驚いた顔をして私を見上げる。


「茉那。あいつが言ったこと、気にしちゃダメだよ。茉那は別に浮いてなんかないし、あんたの“恩人”だって茉那だから助けたに決まってる」