私は茉那を見つめた。
茉那は若菜の後ろ隣で、睫毛を伏せて肩を微かに震わせていた。
私の胸の中で、小さな小さな種火ほどの怒りが燻り始める。
そこまできて、私は若菜が茉那や私に馴れ馴れしく話しかけてきた真意をようやく理解した。
若菜は私達に釘を刺しておきたいのだ。
真宏に優しくされても勘違いするな、と。
彼は浮いている人間を放っておけない性格なだけで、私や茉那に興味があるわけではない。
だから変なことを考えるな、と。
茉那はともかく、私なんかに釘を刺しても仕方ないのに。
私は若菜に一瞥を投げると、小さく鼻で笑った。
「東堂さん」
「何?」
私の呼びかけに、澄ました顔で若菜が答える。
「そんなにあいつに構ってほしいなら、あいつの前でわざと倒れたら?」
「は?」
若菜の顔から愛想の良い笑みが消えた。
怪訝そうに眉を顰めた若菜の顔が、いつか見た彼女の鬼のような形相を思い起こさせた。