学校へ出かけるときになっても、奏葉はまだ俺のことを怒っているようだった。


「そわ。ちょっと待てよ」

俺が後ろから声を掛けても、全くといっていいほど反応しない。


「そわ」

駆け寄って腕を掴むと、奏葉が眉尻を上げ俺を睨みつけるようにして振り返った。


「触らないで!」

奏葉が俺の手を振り払う。

俺を睨む奏葉の目は、人を寄せ付けない、冷たいけれどどこか強さを持ったいつもの奏葉だった。

俺は唇の端を持ち上げにやりと笑うと、奏葉の手を離す。

奏葉は一瞬怪訝そうに眉を顰めて、俺から視線を反らした。

それあら俺に背を向けて、背中から怒りのオーラを出しながら早足に前へと歩き出す。

奏葉のその背中を見た俺は、安堵して笑った。


泣いているよりも、今みたいに俺のことを睨んで怒鳴りつけてくるくらいの方が奏葉は奏葉らしい。

俺は前を歩く奏葉の背中を早足で追いかけた。

追いついたらきっとまた、俺のことを睨みつけてくるだろう。


今は、彼女のその顔が見たかった。