母親を失くしたことが、奏葉の心にどれだけ大きな衝撃を与えたかということを改めて思い知らされたような気がした。
初めて会ったとき、俺は奏葉のことを少し憎んでいた。
彼女がカオルさんのことを傷つけていたからだ。
だけど、最近は初めの頃のように奏葉を憎めない。
鋏で髪の毛を切ったときの彼女の悲痛な叫び声。
夜の公園で見せた淋し気な横顔。
あどけない子どものような寝顔。
そして、ただ一度だけ俺に見せた笑顔。
俺は奏葉の頬を伝う涙を指でそっと拭った。
拭っても拭っても、閉ざされた彼女の瞼から伝ってくる涙。
俺には奏葉を放っておくことができなかった。