「……マ……」

奏葉の眉根が寄り、あどけなかった寝顔が何だが悲しそうに歪む。

奏葉の唇が微かに動いた。

俺はもう一度ベッドの傍に近づくと、奏葉の枕元にしゃがみ込んだ。


「そわ?」

名前を呼ぶと、奏葉の手が何か探すように空を彷徨う。

俺はそのことに気づくと、空を探る奏葉の手を強く握った。


「そわ?」

目を閉じたままの奏葉の瞼から涙が一筋の線になって頬を伝う。


「マ、マ……」

奏葉の唇が動き、そこから頼りな気な小さな声が漏れる。


「ママ……」

奏葉がうわ言をいいながら、俺の手を確かめるように握り返した。


「ママ……行、かないで……」

         
夢を見ているのだろうか。

奏葉の悲しげな声が、何故だか俺の胸を締め付ける。


俺は強く握ってくる奏葉の手を柔らかく握り返した。


「ここにいるよ」


そう、彼女の耳元に囁こうかと思った。

だけどそれはただのまやかしに過ぎない。