奏葉が、俺がこの家に来て初めてカオルさんが作った食事を口にした。
母親の味とは違うが「おいしい」とつぶやき、目の前に出されたハンバーグを残さず全部食べた。
そのあと食器を提げた奏葉は、黙って自分の部屋へと戻っていった。
奏葉がリビングから立ち去ったあと、カオルさんが涙ぐみながら手の平で顔を覆った。
小さく鼻をすするカオルさんの肩を、祐吾さんが無言で支えるようにして抱く。
「祐吾さん。奏葉ちゃん、おいしいって……」
カオルさんの上ずった声が聞こえる。
「あぁ、そうだな」
静かな会話だったが、カオルさんも祐吾さんも嬉しそうだった。
春陽が黙って立ち上がりリビングを後にしたので、俺も静かに立ち上がってリビングを出た。