「いただきます」

父を筆頭に、私以外の四人がそれぞれにその言葉を口にする。

私は無言のまま手を伸ばすと、食卓の中央に置かれたケチャップを手に取った。

手にしたケチャップで、ハンバーグの真ん中に大きなハートを描く。
      
それは、あの女に対する小さな抵抗。

だけど私がハンバーグに描いたハートマークは歪んで少し変だった。

ママのようにケチャップで上手くは描けない。

私は唇を横に引き結ぶと、目の前のハンバーグを見つめた。

私の正面に座る父が、ハンバーグに描かれたハートをじっと見ているのがわかる。

私は箸を手に取ると、ハンバーグを一口食べた。

口の中に、柔らかい肉がじんわりと溶けていく。

それと共に、舌がケチャップの甘辛い味を感じる。


「やっぱり違う」

小さな声でつぶやく。