「ただいま」

玄関のドアが開く音がして、父が家に帰ってきた。

真っ直ぐリビングに入ってきた父は、台所に立っている私の姿を見て小さく口を開く。

だが、すぐに眼鏡の奥の目をやや細めて私に言った。


「今日はハンバーグか。腹減ったな、奏葉」

私は何も答えず父から目を反らした。

いつもならそんな私の態度を見て怒鳴り声を上げる父が、何も言わなかった。

 
「鞄を置いて、着替えてくるよ」

父があの女に微笑みかける。

リビングから出て行く父の後ろ姿が、今日はどことなく嬉しそうだった。


父が着替えを済ませてリビングに戻ると、私達は食卓についた。

食卓を五人で囲む。

それぞれの前に置かれているのは、焼きたてのハンバーグ。
               
私のハンバーグ以外は全て、あの女が作った手作りソースが掛けられていた。

ハンバーグの傍には人参のグラッセやジャガイモが綺麗に添えられていて、やっぱりおしゃれなレストランのハンバーグみたいだった。