「奏葉ちゃんは、ハンバーグにケチャップね」
あの女は笑いながら冷蔵庫からケチャップを出すと、それを食卓に置いた。
箸やコップと一緒に食卓に置かれたケチャップ。
何となくそれだけが食卓の上で場違いのような気がした。
怒ればいいのに――……
台所で忙しく動き回るあの女の横顔を見ながらそう思った。
一度でいいから、私のことを怒鳴り散らせばいいのに。
そうすれば、私はもっと純粋に彼女のことを憎める。
あぁ、やっぱり本当の母親ではないのだと。
だけど彼女は私が何を言っても、どんなに冷たい態度をとっても、ただ悲しい顔をするだけで一度も怒ったことがない。
怒っているのはいつも私だけ。
あの女を拒絶するのはいつも私の方。
そのことが時々、私の胸に歪な苛立ちを引き起こす。