☆☆☆


夕方家に帰ると、リビングから肉の焼けるいい匂いが玄関まで漂ってきた。

私は靴を脱ぐと、すぐに二階へは向かわずにリビングへと向かう。


「奏葉ちゃん、おかえりなさい」
  
あの女がすぐにリビングを覗いた私に気付く。

私は彼女に会釈すると、リビングを抜けて台所にいる彼女の手元を覗き込んだ。
                  
ハンバーグを焼いているその横で、彼女はハンバーグに掛けるソースを作っていた。

一度だけ見た、変わった手作りソース。

        
「もう少ししたら祐吾さんも帰ってくるみたいだから、そうしたら夕飯にしましょう」
  
あの女が忙しく手を動かしながら私に笑いかける。

私は彼女の顔をじっと見つめてから、言った。


「私、ケチャップ……」
          
私の言葉を聞いたあの女の眉根が不思議そうにほんの少し歪む。


「あぁ」

だがすぐに彼女の顔に笑顔が戻った。