奏葉はカオルさんのその声を当然のように無視すると、玄関から出て行った。
俺が振り返ると、カオルさんが困ったように眉を寄せて微笑む。
「まぁ君、いってらっしゃい」
「いってきます」
俺はカオルさんに笑い返すと家を出た。
まだそう遠くない距離に、奏葉の背中が見える。
俺は走って彼女の背中を追いかけた。
「そわ」
追いついて声を掛けるが、耳にイヤホンをはめて歩いている奏葉は俺の声に気付かない。
「そわ!」
呼びかけながら肩を叩くと、奏葉が眉間に皺を寄せながら振り返った。
何?と、イヤホンをつけたまま目だけで俺に訴える。
「人が話しかけてるときはイヤホン外せよ」
俺は顔をしかめると、奏葉の耳からイヤホンを引っ張って外した。
「何すんの?」
奏葉がただでさえ少し吊りあがった目をさらに怒らせて俺を睨む。
俺は奏葉に何か言い返してやろうと口を開いたが、すぐに考え直して口を閉ざした。
奏葉に睨まれる度に反論していたら、こっちが疲れてしまう。