俺は顔を上げると、奏葉に歩み寄った。

俺に近づかれた奏葉は、体をビクリと強張らせて一歩後ずさる。

引き離された距離を詰めるようにさらに奏葉に近づくと、俺はそっと彼女の不揃いな髪に触れた。

母親ゆずりだという奏葉の髪は、細くて柔らかかった。


髪に触れた手を伸ばし、奏葉の頭をゆっくりと撫でる。

突然の俺の行動に、奏葉は肩を縮こまらせて怯えた顔で俺を見上げる。


だが、俺は彼女の髪を撫でる手を止めなかった。

柔らかい奏葉の髪を何度も何度も撫でる。

俺を見上げる奏葉の怯えた目が、夕方彼女の部屋で目の当たりにした彼女の異様な行動を思い起こさせる。

俺は奏葉を見つめ、にっこりと笑った。


「俺、別に長い髪が特別好きなわけじゃないから」

俺がそう言うと、奏葉の目から怯えの色がふっと消えた。

俺の言葉の意味を理解していない様子の彼女は、きょとんとした顔で俺を見上げている。