「カオルさん、辛くないの?」
真剣な目をして、カオルさんをじっと見つめる。
でもカオルさんは俺の問いかけにはひとつも答えず、ただうっすらと唇に笑みを浮かべただけだった。
悲しく、淋しそうな瞳をしたままで。
俺もカオルさんも何も言わないまま、沈黙が続く。
「あ!お姉ちゃん?どっか行くの?」
俺とカオルさんの間に生まれた長い沈黙を破ったのは、廊下から聞こえた春陽の声だった。
春陽の声に続いて聞こえてきたのは、階段を下りる小さな足音。
俺とカオルさんは顔を見合わせると、ほぼ同時にリビングを出た。
リビングを出て玄関の方を見ると、ちょうど奏葉が靴を履いて外に出かけようとするところだった。
「奏葉ちゃん。もうすぐごはんできるんだけど、どこか行くの?」
そう声を掛けたカオルさんは、すぐに奏葉の異変に気付き小さく息を飲んだ。