「いらない……」

鋏が髪を切り落とす度に、呪文のように唇から唱えられる声。

だんだんと、何故自分が髪を切り落としているのかよくわからなくなる。

ただ治まることのない怒りだけが、私の衝動を駆り立て続けていた。


「そわ!」
                
無心に髪を切り続ける私の手首を、真宏が強い力で掴む。


「いらない……」

真宏に強い力でつかまれて、私はそれ以上髪の毛を切ることができなくなった。


「いらないっ」

それでも私は真宏の力に抗うように、鋏を握る手に力を入れる。

髪の毛に鋏を向けようとする私の手を、真宏がさらに強い力で押し返す。


「うぅぅぅ……」

「やめろっ!!」


真宏の指が手首に食い込む。

それくらい強い力で手首を押さえつけられ、私の手の中から鋏が無理やり奪い取られた。


「返して!」

鋏を取り返そうと必死で立ち上がると、真宏は私から奪い取った鋏を一番離れたところにいた拓馬に渡した。