「訳のわかんねぇやつだな」

俺はぼやくように言いながら、奏葉から借りた英語の教科書をスクールバッグに突っ込んだ。


「すぐ帰ってくんじゃないの?俺達だけで先にお邪魔させてもらおうぜ」

人の家に来るくせに、拓馬がエラそうな口調で言う。


俺達はそれぞれスクールバッグを持つと、教室を出て靴箱の方へ向かった。

一階の靴箱に行くには、階段を二階分降りて職員室の傍を抜けないといけない。

ちょうど三人で職員室の前に差し掛かったとき、俺の隣を歩いていた拓馬が立ち止まった。


「あれ、奏葉ちゃんじゃない?」
           
拓馬の声につられ、俺と茉那も立ち止まる。

そうしてふたりで拓馬が指差した方へと視線を向けた。


職員室の近くには、もう一つある別棟の校舎へと繋がる渡り廊下がある。

その渡り廊下の先に奏葉がいた。

奏葉と向かい合うようにして立っているのは、男子生徒。

少し遠い渡り廊下の先に立っている二人は横顔をこちらに向けたまま何か話していて、俺たちに気づく様子はない。


「奏葉と一緒にいるの、委員長かも」

茉那がつぶやく。