「え?あれ、東堂 若菜?一年前と全然印象違うじゃん」
拓馬が目を見開き大きな声を出す。
「だよな。印象違うけど、若菜だよ。そわに教科書借りてたら、いきなり話しかけられてちょっと焦った」
「そうなんだ?でも、今さら何って感じだよな」
拓馬が俺を見て顔をしかめる。
東堂 若菜とは高校一年のときに同じクラスになって、出席順に並べられた最初の席で前後だった。
入学したての頃は出席順に並べられたままですぐに席替えなんてしないし、配布されるものも多い。
俺が配られたプリント類を後ろに回すたびに、若菜は俺に話しかけてくれた。
入学したての頃は、若菜の化粧はうっすらと肌の上に乗せられている程度でさっき見た彼女とはまるで別人のように見えた。
若菜は飛び切り可愛いというわけでも、飛び切り美人というわけでもない。
でも、俺に頻繁に話しかけてくる舌足らずの喋り方とか後ろを振り返る度に俺を見上げるその上目遣いの表情が彼女を可愛く見せていた。