「ちょっとな。そわに教科書借りに来た」
真宏が若菜の前で私の名前を呼び捨てにする。
「……」
そのことに文句を言ってやろうと思ったが、真宏が私の名前を呼び捨てたとき一瞬だけ若菜が私をもの凄い形相で睨むように見つめた。
それで、私は喉まで出かけた言葉をぐっと飲み込む。
「そわって……真宏、月島さんと仲良かったっけぇ?」
私を一瞬睨んだあと、若菜は口元に笑みを浮かべてさっきの鬼のような形相とは似ても似つかない甘ったるい声で真宏に話しかけた。
「あぁ、まぁちょっと」
真宏が少し面倒臭そうに眉をしかめる。
「真宏!教科書借りれた?」
そこへ拓馬がやってきて、真宏の肩を叩いた。
拓馬の出現で、真宏が安堵したように笑う。
「あ、奏葉ちゃん。真宏が面倒おかけします」
拓馬が私を見てふざけたように言う。
それで、若菜は真宏から完全に無視される形になった。