「さっさと行って」
ぼやくようにそう言ったとき、私の後ろから舌足らずの甘ったるい声が聞こえた。
「あ、真宏じゃん。何してんのぉ?」
振り返ると、私の後ろにクラスメイトの東堂 若菜(トウドウ ワカナ)が立っていた。
濃く塗ったチークとわざとらしいくらい上を向いた長い睫毛。
グロスが光る艶々した唇。
若菜はクラスの中でも茉那と同じくらいに美人で目立つ。
だけど彼女が茉那と違うと私が思う点は、彼女の美は化粧によってだいぶ誤魔化されているんじゃないかというところ。
若菜の出す甘ったるい声も私は好きじゃない。
「若菜?」
だが、真宏はそんな若菜とも知り合いのようだった。
しかも、下の名前で呼び合えるぐらいには親しい間柄らしい。