「は?」

「忘れたから。時間ないし、早く貸せ」

迷惑そうに眉を寄せる私に、真宏は次々と勝手なことを言ってくる。


「あたし、貸してあげようか?」

不機嫌な私の顔を横目に見ながら、茉那が口を挟む。

だが、真宏は小さく首を振って茉那のその申し出を断った。


「いや。もし返し忘れても、そわだったら家で返せるから便利だし」

真宏に急かされ、私は仕方なく自分の机の中から英語の教科書を引っ張り出した。


「はい」

手渡すと、真宏が私の教科書をパラパラと捲る。


「そわ。お前すげぇ真面目に授業受けてんだな」

蛍光ペンで引かれたラインや授業で聞いた書き込みを見て、真宏が関心したように目を見開く。


「悪い?ていうか、学校では名前で呼ばないでよね。迷惑だから」

低い声で文句をつけると、真宏が苦笑した。


「はいはい。じゃ、借りてくから」

どうでもよさそうにそう言って、真宏が挨拶でもするように私に向けて軽く手を挙げる。