私は茉那が名前を書くのを確認すると、茉那の分と自分の分のプリントを摘み上げて彼女に背を向けた。

   
「奏葉、あたし持ってくよ?」

慌てて声を掛けてくる茉那を振り返る。


「いいよ。私の方が茉那より走るの早い」

私は口角を上げると、茉那に笑ってみせた。


教室を出ると、廊下の遥か先に委員長の蒔田の背中が見えた。

私は一目散にその背中を追いかける。

廊下には生徒達がたくさん戯れていて、走って追いかけるには少し面倒だった。


「委員長!」

やっと追いついて、蒔田の背中に声を掛ける。

私の声で、彼が真っ直ぐでさらさらとした短い髪を揺らしながらゆっくりと振り返った。

 
「月島さん?」

息を切らしながら追いかけてきた私を見て、蒔田が驚いたように小さく首を傾げる。


「これ」

蒔田の前に重ねられた二枚のプリントを差し出すと、彼は納得したように目を細めて穏やかな笑みを浮かべた。


「まだなら教室にいるときに言ってくれればよかったのに」

「ごめんなさい」

反射的に謝ると、蒔田はさらに目を細めて笑った。