「カオルさん……」

「いいの。二人とも早く行きなさい。遅刻するわよ」
             
不満気に唇を尖らせている真宏を、あの女が珍しく強い口調で諭す。

真宏は私にちらりと一瞥を投げたあと、諦めたように息をついて小さく肩を竦めた。


「分かった。あ、カオルさん」

私の前に立って玄関の扉を開けながら、真宏が思い出したように振り返る。


「今日、拓馬が遊びに来るって」

「そうなの?分かったわ」
  
あの女が頷くのを確認すると、真宏は私の方を見た。

       
「そわ。お前も茉那連れてくれば?」

「は!?」

真宏は私にそう言い残すと、一人でさっさと家を出て行った。

玄関に取り残された私に、あの女がにこりと微笑みかける。

 
「奏葉ちゃん、いってらっしゃい」

私は彼女から目を背けると、無言で家を出た。