玄関で靴を履き慣らしていると、真宏が私の横に来て座った。

真宏のあとを追うようにして玄関に出てくるあの女。

一瞬だけ、私とあの女の目が合う。

だが、言いようのない不快感を感じて私はすぐに彼女から目を反らした。   

何も言わず玄関から出ようとする私を、あの女が引き止める。

 
「奏葉ちゃん、お弁当」

振り返らずに玄関の取っ手を捻る。

そのまま出て行こうとしたとき、真宏がおかずくさい匂いのする巾着袋を私の顔の横に差し出した。


「そわ。弁当!」

私は真宏を横目で睨むと、手の甲で巾着袋を振り払う。


「いらない」

「カオルさんが作ってくれたんだから、持ってけよ」

真宏がしつこく私に巾着袋を差し出してくる。


「だから、いらないから!」

私がそう怒鳴りつけると、突然顔の傍に白い手が伸びてきて真宏から巾着袋が奪われた。


「まぁ君、もういいわ」
            
振り返ると、すぐ傍であの女が口角を上げて笑っていた。