「そろそろ帰ってくれば?」

俺の言葉に、奏葉が唇の端をゆがめる。


「カオルさんが心配するから?」

からかうような口調で言われ、俺はむっとして眉を寄せた。


「カオルさんは関係ない。ただ、こんなとこにずっといれば風邪ひくだろ」

すると、奏葉が意外そうな顔で俺を見上げた。

俺を見上げた奏葉の顔を街灯の光がはっきりと照らし、彼女の頬にある赤い腫れを誇張する。

それがまだ残っていることが気になった。

胸をチクリと刺すような罪悪感。


「そ――……」
「ここ、ママが病気になる前によく一緒に来た公園」

頬の腫れに触れようとして、先に口を開いた奏葉に言葉を遮られる。

奏葉を見つめると、彼女が初めて俺には向かってほんの少しだけ微笑んだ。

その笑みが一瞬、俺をドキリとさせる。

それは唇を歪める皮肉っぽい笑いでもなく、人をバカにするような笑いでもなかった。

街灯の光の下で、奏葉の目がいつもよりほんの少し優しく見える。


「ここに来ればママの星が見えるんじゃないかと思って」

目を細めた奏葉が夜空を見上げた。