「奏葉が何かあったと薫に言ったのか?」

穏やかな声で祐吾さんがカオルさんに尋ねる。


「そうじゃないけど……」

それに続くカオルさんが言葉を詰まらせる。


「君が奏葉のことを気に掛けてくれるのはすごく嬉しいよ。でも、奏葉自身はきっとそれを望んでいない」

「……」

穏やかな声で、優しい眼差しで祐吾さんに言われ、カオルさんが俯いて黙り込む。


「奏葉は、君があの子に関わることを望んでない。そして、僕があの子に関わることも望んでない。あの子が求めているのは今でも死んだ母親なんだ」

思わず俺は、テレビから外した視線を祐吾さんの方へと向けた。

俺の座っている位置からは、祐吾さんの横顔が見える。

表情も声音も穏やかで優しいのに、その横顔はとても淋しそうだった。
        
ふと隣を見ると、春陽もテレビに集中できていないようだった。

視線だけはテレビ画面を見ているが、無表情のままで耳はカオルさんと祐吾さんの会話に傾けている気がする。