その日の夜、奏葉は23時近くなっても家に帰ってこなかった。

心配したカオルさんが、リビングと玄関の間をそわそわと何度も往復する。


「祐吾さん。奏葉ちゃん、今日は特に帰りが遅くない?」

「奏葉も子どもじゃないし、そんなに心配しなくても帰って来るよ」

祐吾さんは新聞に視線を落としながら、奏葉の不在を特に気にとめていない様子で応えた。

それを見たカオルさんが、ほんの少し眉をしかめて祐吾さんの隣に座る。


「そんな呑気なこと言って、心配じゃないの?今日の朝ね、奏葉ちゃんの頬がすごく赤く腫れてたの。もしかしたら学校で何かあったんじゃ……」

そのとき、祐吾さんが初めて顔を上げてカオルさんを見た。

春陽とソファに座ってテレビを見ていた俺は、奏葉の頬の話が出てきて何となく気が気じゃない。

視線だけはテレビを見ながら、耳はカオルさんと祐吾さんの会話の方へと傾ける。