「謝らないんでしょ?」
唇に薄く笑みを浮かべたまま、奏葉が言う。
それで俺は、開きかけた口を閉ざした。
「ちゃんと貫けば?あんたは間違ってないよ」
さっきまでと同じように皮肉っぽい笑みを唇に浮かべているはずなのに、奏葉の目がほんの少し淋しそうに翳る。
「そ……」
だがそんな風に見えたのは本当に一瞬だけで、次の瞬間にはもう奏葉の瞳に浮かんだ小さな翳りは消えていた。
「あんたは間違ってないけど、私はあんたのこと許さない」
冷たい瞳をした奏葉が、真顔になる。
「だから、謝る必要なんてないよ」
奏葉はそう言いながら、外れたイヤホンをはめ直した。
イヤホンをつけた彼女は、もう俺の方は見ない。
奏葉のイヤホンから漏れる、シャカシャカとした小さな雑音。
彼女はそれで自分の世界を閉じ、そこに入り込めないように俺を拒絶する。
そうやって奏葉は、一体何を守ろうとしているんだろう。
亡くなった母親?
それとももっと他の――……
俺は立ち去っていく奏葉の背中をそれ以上追いかけることができなかった。