「うるさい。馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ」

奏葉が俺を見上げながら不機嫌そうな声を出す。


「馴れ馴れしくって、お前何様なんだよ?お前が無視するからだろうが!!」

奏葉の態度にますます腹が立った俺は、怒鳴りつけるように言った。

その声を聞いて、駅に向かって歩いていた周りの人達がちらちらと俺と奏葉の方を振り返る。


「バカじゃないの」

恥ずかしくなって肩を竦めた俺を見て、奏葉がバカにしたような口調で言った。

「は?」

「だいたいあんた、声デカいのよ。部屋で電話するときは声のトーンをもっと下げてよね。居候でしょ」

侮蔑のこもった目で俺を見ながら、奏葉がそう付け加える。


「……!」

言い返そうと思ったが、そのとき奏葉の腫れた頬が俺の視線を捕らえたため、やむなく口をつぐんだ。

俺の視線を感じたのか、奏葉が赤く腫れた頬を手の平でそっと撫でる。


「それ……」

何か言おうと口を開いた俺と、唇に薄く笑みを浮かべた奏葉の視線が宙で絡み合う。