奏葉の片方の頬は赤くなって腫れていた。

すぐに昨日の夜俺が殴った痕だと気づく。


「さぁ?」

奏葉は気まずくて視線を反らした俺を一瞥すると、小さく肩を竦めた。

そしてカオルさんの方を見上げてにやりと笑う。


「よかったね。また一人あなたの味方が増えて」

「奏葉ちゃん、何の話?」

奏葉は俺にもにやりとした笑みを向けると、外れたイヤホンをつけ直し家を出て行った。


「まぁ君。奏葉ちゃん、学校で何かあったりしてないわよね?」

奏葉が消えた玄関の扉を見つめながら、カオルさんが心配そうな声で言う。


「あぁ、特に問題はなさそうだけど……」

まさか俺が殴ったとも言えず、言葉を濁す。


「何かあったら、一番にカオルさんに知らせるから」

眉を寄せたまま心配そうな表情のカオルさんに適当なことを言うと、俺も急いで玄関を出た。