私を殴った真宏は、自分がした行為をすぐに認識できないのか振り上げた自分の手の平を呆然と見つめていた。


「何するのよ?」

私が睨むと、真宏ははっと我に返ったように私を見下ろした。

そして、私を睨み返して唇を強く噛み締める。


「お前が最低なこと言うからだ」

私を睨みながら、真宏が唸り声にも似た低い声を出した。

ゆっくりと手をおろした真宏が、その手をぎゅっと握り締めて拳を作る。


「謝らないからな」

真宏は私にそう言い残すと、リビングを出て行った。


「は?謝れよ」

立ち去る真宏の背中に小さな声で悪態をつく。

そのとき、口の中にゆっくりと鉄の味が広がっていくのを感じた。

舌で口内を触ると、殴られた衝撃で口の中が少し切れていた。


「謝れ」

苛立ち紛れにつぶいて、まだジンジンと痛む頬を手の平で押さえた。