あの女のことで必死になっている真宏を見ていると、何だかバカみたいに思えてくる。

私は嘲るように鼻で笑った。
    
「そんなに必死になって、あんたもしかしてあの女のこと好きなの?」

「はっ!?」

冗談交じりに言った私の言葉に、真宏が大袈裟に反応する。

それで、すぐに図星なのだとわかった。
  
私は真宏を見上げながら、あからさまににやりと意地悪く笑った。

      
「だからあの女のことになるといつも必死なんだ?」

「は!?お前、勝手なことぬかすんじゃねぇよ!」

薄暗いリビングの中でも、真宏の頬が上気していることがはっきりとわかる。


「でも、人妻だよ?」

私はにやけた笑いを口元に残しながら続けた。

           
「何なら、あんたがあの女をパパから奪ってこの家から出て行く?私は大歓げ――……」

バシッと渇いた音がして、冗談交じりに続ける私の頬に突然激痛が走った。

何が起こったかわからないまま、反射的に痛みの走った頬を押さえる。

顔を上げると、真宏が手の平を振り上げた格好で私の前に立っていた。


それでようやく、私は真宏に頬を殴られたのだと気づく。

そのことを脳が認識すると、頬の痛みがそれまでに増して強くなった。