私はつかまれたままの腕を見つめながら、眉をしかめた。


「何で食わないの?カオルさんの作ったメシ」

真宏の低い声がリビングに響く。

私はつかまれた腕に視線を向けたまま、何も答えなかった。

視線を落としたまま黙っている私に、真宏が言葉を続ける。


「食ってやれよ。カオルさん、お前の分も毎日欠かさず作ってんの」

真宏が顎で食卓に乗った食事を指したのが、リビングにの床に映る影で分かる。


「母親が死んで悲しい気持ちは分かるけど、だからってカオルさんには何の罪もないだろ?」

黙り続ける私を、真宏がさも分かったような口調で諭す。


腹が立った。

何も知らないくせに、突然やって来た居候に口出しする権利はない。


「あんたの母親は生きてる」
          
私は視線を上げると、真宏の目を睨んだ。

「は?」

真宏が怪訝そうな顔をする。


「だから私の悲しい気持ちなんて、あんたには絶対わからない」

強い口調で言った私の目を、真宏がじっと見つめ返してくる。