あの女か父が起きたのだろうか?
そう思って、肩を微かに震わしながら振り返る。
だが、リビングの入り口から入ってきたのはあの女でも父でもなかった。
「いつ帰ってきたんだよ?」
リビングに入ってきた真宏が私に尋ねる。
私は彼の問いかけを無視し、答えなかった。
ジュースを飲もうと思ったが、真宏の登場でその気も失せた。
食器棚の引き戸を閉め、ジュースを冷蔵庫に入れる。
私はそのまま何も言わずに、真宏の隣を抜けてリビングを出て行こうとした。
「相変わらず感じ悪いよな」
リビングを出て行こうとする私の腕をつかみ、真宏が皮肉っぽくつぶやく。
「はなして」
つかまれた手を振り払おうと上下に激しく振ると、真宏はさらに強く私の腕をつかんだ。
「……」
つかまれた部分に真宏の爪が浅く食い込んで痛い。