再び数学の問題を解き始めた私だったが、何だか今ひとつ集中ができなかった。
私は小さくため息をつくと、ひとつ伸びをして問題集とノートを閉じた。
そして立ち上がると、部屋のドアを静かに開いた。
二階の階段の吹き抜けから階下を覗き込む。
家に帰ってきたときは点いていたリビングの灯りは消えていた。
テレビの音ももう聞こえない。
私はなるべく足音を立てないように、静かに階段を下りた。
そのまま静かに一階の廊下を歩き、リビングを抜けて台所の電気を点ける。
電気をつけたとき、食卓にラップをかけて置かれている一人分の食事が目に入った。
あの女が作った、今日の私の分の夕食。
私はそれから視線を反らすと、冷蔵庫を開けてすぐ目の前にあったジュースを手に取った。
ジュースを注ぐコップを出そうと食器棚の引き戸を開いたとき、リビングの方から誰かが入ってくるような物音がした。