そのはずだったのに……

    
「あ?なんだよ、それ」
              
隣の部屋から漏れ聞こえてきた真宏の大きな声で私の集中力は途切れた。

最初は無視していたが、無視しようとすればする程壁越しに聞こえてくる真宏の声が気になってくる。

何を言っているのかまでは聞こえなかったが、誰かと電話しているらしい真宏の声はいつまでたってもうるさくて静まる気配がなかった。


苛々として、シャーペンの芯を何度もカチカチと出し入れする。

私の苛立ちを当然知らない真宏は、何が面白いのか壁の向こう側で大きな笑い声をたてている。


ついにたまりかねて、部屋に怒鳴り込みに行こうと立ち上がったとき、机に上の棚に立てかけてあった古びた薄い冊子が私の目に止まった。

私はそれを手に取ると、怒鳴り込みに行くのをやめてもう一度学習机の椅子に座る。