その日、私は外で夕食を食べてから家に帰った。

そっと玄関のドアを開けると、リビングからテレビの音が漏れてきた。

きちんとそろえられた父の靴のつま先がこちらを向いている。

既に帰宅した父がテレビを見ているのだろう。

テレビの音に混じって、カチャカチャと食器の触れる音も聞こえた。
              
今物音を立てると、きっとあの女が玄関までやってくる。

エプロンで手を拭きながら私に作り笑いを向ける彼女の姿が容易に想像できた。

私は静かに家に入ると、あまり足音を立てないように自分の部屋へと上がった。

二階に上がると、私の部屋を含めて三つある部屋のドアは全て閉められていた。
              
真ん中に私の部屋を挟んで左が春陽の部屋。

そして右がママの……
  
今は真宏が生活をしている部屋だった。

二つの部屋のドアの下の隙間からは細い光が廊下にすっと延びている。