「奏葉、怒らないでね?カオルさん、あたしが想像してたよりずっと優しくて感じのいい人だった。昨日出してくれた夕飯もすごくおいしかったんだよ」
私を見上げる茉那の瞳がやや怯えるように揺れ動く。
いつもなら茉那があの女のことに触れると不機嫌になる私だったが、今日はそれを我慢した。
茉那の目を見つめ返しながら、口角の片方をほんの少しだけ持ち上げる。
「うん、知ってる」
私が頷くと、茉那が大きな目をさらに大きく見開いた。
「奏葉?」
茉那が神妙な顔をして何か言いたそうに唇を動かす。
だが、茉那の唇から言葉が零れだす前に私の方が先回りした。
「茉那、また遊びに来ていいよ。春陽も喜んでたみたいだし」
私が先回りしたせいで、茉那は自分が口に出そうとした言葉をすっかり失ってしまったようだった。
茉那の神妙な表情が一瞬にして笑顔に変わる。
「ほんとに?」
「ほんとに」
茉那につられて、私もほんの少しだけ微笑むように笑う。