家にたどり着くと、リビングの電気が消えていた。
祐吾さんやカオルさんは、もう既に部屋に戻っているらしい。
玄関に奏葉の靴はなかった。
まだ帰ってきていないのか。
特に何の感想を持つこともなく、ただその事実だけを確認する。
俺は靴を脱ぐと、リビングに入り電気をつけた。
そして、何気なく食卓へと目を向ける。
食卓の上には、ラップをかけられた一人分の食事がぽつんと置かれていた。
それは奏葉のための食事だった。
奏葉は家で食事を摂らない。
それでもカオルさんは、毎日毎日奏葉の分の食事も欠かすことなく作り続けていた。
家族が食事を摂るときにはちゃんと奏葉の席に並べ、そして終わったあとに手がつけられていないままの食事にラップをかけて食卓へ置いたままにしておく。
奏葉がいつでも食べられるようにだ。
だが、俺がこの家にいる一週間の間で奏葉のために用意された食事に箸がつけられていたことは一度もない。
俺はカオルさんが毎朝悲しそうな顔でその食事をゴミ箱に捨てているのを知っていた。