その日の夜、夕飯の時間になっても奏葉は家に戻ってこなかった。
 
その代わり、茉那と拓馬が家で夕飯も食べていくことになった。

祐吾さんも早く帰宅して、その日の食卓はいつも以上ににぎわった。

茉那や拓馬がおいしそうに夕飯を食べてくれて、カオルさんも嬉しそうだった。


夕飯を食べ終わると、俺は茉那と拓馬を駅まで送った。

そのときになっても奏葉は家に帰ってこなかった。


「奏葉、帰ってこなかったね……」

改札を抜ける直前、茉那が俺を振り返る。


「あぁ、あんなやつほっとけよ。茉那、お前よくあんな奴と友達やってるよな」

俺がそう言うと、茉那が淋しそうな目をして笑った。


「奏葉は優しいよ」

「え?」


あいつが優しい?

目を丸くしている俺に、茉那が続ける。


「奏葉も苦しいんだよ。それはわかってあげて」

茉那は俺に微笑みかけると、改札を抜けてその向こう側から手を振った。

茉那と拓馬の背中が、並んでホームの人込みの中に消えていく。



奏葉は優しい――?

確か、初めてこの家に来た日に春陽も同じようなことを言っていた。


俺にはふたりの言葉が全く理解できないけれど、俺が見えていないあいつの何かがあるんだろうか?