奏葉は春陽にちらりと視線を向けただけで、彼女に何も言い返したりはしなかった。
部屋の中に重たい沈黙が流れる。
それを最初に破ったのは奏葉だった。
奏葉は鞄の中から携帯と財布を取り出すと、茉那に言った。
「ごめん、茉那。私ちょっと出かけてくる。ゆっくりしていって」
「え?奏葉?」
奏葉は茉那にそれだけ言うと、立ち上がって部屋を出て行った。
開け放たれた部屋のドアの向こうから、奏葉が階段を駆け下りる音と玄関の扉を乱暴に閉める音が聞こえてくる。
奏葉が立ち去ってからしばらくして、春陽が泣きそうな顔で俺達に頭を下げた。
「ごめんなさい。せっかく来てもらったのに……」
謝りながら、春陽が俺達に何度も何度も頭を下げる。
妹にこんな思いをさせて、あいつはどこに行ったんだ?
まるで自分だけが被害者みたいな顔をして。
部屋を飛び出していった奏葉に対して、今まで以上に強い怒りを感じた。